日本にスミレの仲間は60種ほどあるが、その中で最も身近なのがタチツボスミレである。草地から山林まで幅広い環境で生きられるのが、その理由だろう。
タチツボスミレは、なぜ様々な環境で生きられるのだろうか?それは、タチツボスミレの生存戦略に秘密がありそうだ。
普通、種子植物が種子を作るためには、花を咲かせ、受粉をする必要がある。
しかし、タチツボスミレの一部の花は、美しい姿を見せることなく自家受粉をして、種子を作ってしまうのだ。花を咲かせることにエネルギーを使わずに済む、なんとも効率的な方法である。
「それならば、全ての植物は自家受粉をすれば、どんどん繁殖できるじゃないか。」という声が聞こえてきそうだが、そう上手くはいかない。自家受粉ばかりだと、近親交配となって形質の弱い個体が生まれやすくなってしまう。また、遺伝子の多様性が失われると、環境の変化に弱くなり、そこから種の絶滅につながるおそれまであるのだ。
タチツボスミレのように上手に自家受粉を利用することは、なかなか難しいことなのかもしれない。
もうひとつ、スミレの仲間には種の撒き方にも戦略が隠されている。
スミレの果実は朔果と呼ばれるタイプで、乾燥して種を遠くへ弾き飛ばすという特徴がある。これで、まずは数メートル飛ばすことができるようだ。
飛ばした種には「エライオソーム」というおまけがついている。このおまけが、アリにとってはご馳走らしく、せっせと巣に運び込む。ご馳走を頂いていらなくなった種は、巣の近くに捨てられることになり、さらに広範囲へ撒かれることになるのだ。
こうした生存戦略が、様々な環境に適応できる理由のひとつだろう。
タチツボスミレの基本データ
学名:Viola grypoceras
漢字名:立坪菫
花言葉:誠実・小さな幸せ
大きさ:5~20cm
花の見られる時期:3~5月
分布:北海道・本州・四国・九州・沖縄
花弁に毛は無く、柱頭はまっすぐ。紫色の蜜標は、私たちの目にも美しい。
距も紫に色づく。この中にある蜜を狙って、虫達が集まる。
葉はハート型。艶はほとんどない。
托葉が櫛状で、茎がある。
スミレの見分け方はとても難しい。花だけを見ても、種まで特定することはできないのだ。「とりあえず写真を撮って、家で同定しよう」という場合の撮影ポイントを紹介する。
スミレを見分けるための撮影ポイント
- 花を正面から→花弁の色・側弁の毛の有無・柱頭の形
- 花を横から→花の後ろの出っ張り(距という)の形や長さ・がくの付属体の形
- 葉→形・裏側の色
- 葉の付け根→托葉の形・葉柄の翼の有無・茎の有無
このポイントを押さえた写真が撮れていれば、種の特定にグンと近づけるだろう。